平家物語 巻第五 「朝敵揃 1」

2023-10-16 (月)(令和5年癸卯)<旧暦 9 月 2 日>(仏滅 丁未 五黄土星) Finn    第 42 週 第 27278 日

 

我が国の朝敵にはこれまでにどんな奴らがゐたかを調べると、まづ日本磐余命の御宇四年(神武天皇の御代)に、紀州名草の郡高雄村にひとつの土蜘蛛がゐた(昔、天皇に恭順しなかった土豪は土蜘蛛と呼ばれた)。身長は低いが、足や手は長くて、人に負けない腕力を持ってゐた。たくさんの人民を相手に悪いことをしたので、官軍が向けられて、宣旨をよみかけ、葛の網を結んで、つゐにこれを覆ひ殺した。これをはじめとして、今までに、野心を起こして天皇にはむかったものの名を列挙すると、大石山丸、大山守皇子物部守屋蘇我倉山田石河麻呂、蘇我入鹿、大友真鳥、文屋宮田麻呂、橘逸勢氷上川継伊予親王大宰少弐藤原廣嗣、恵美押勝、早良太子、井上内親王藤原仲成平将門藤原純友、安部貞任・宗任、対馬源義親悪左府藤原頼長・悪衛門藤原信頼に至るまで、すべて二十餘人。されどもひとりとして素懐を遂げたものはなかった。屍を山野にさらし、かうべを獄門にかけられただけであった。

秋晴れ。散歩日和の一日であった。