平家物語 巻第六 「祇園女御 15」

2025-01-29 (水)(令和7年乙巳)<旧暦 1 月 1 日>(先勝 戊戌 八白土星新月🌑 Diana  第 5 週 第 27744 日

 

3月1日(治承5年(1181年)3月1日のことかと思ふ)、南都は年末に平家による焼き討ちを受けて大変なことになってゐたが、僧綱らはもとの官職に戻された。末寺荘園は元の通りに知行しなさいとの仰せがあった。3月3日には大仏殿の再建工事が始まった。その工事責任者には蔵人左小弁行隆が就任した。この藤原行隆といふ人は、先年、「やわたのはちまんさん」(男山の峰にある石清水八幡宮)へ行って通夜したことがあったが、その時にこんな夢を見た。御宝殿のうちよりびんづらをゆった天童が出てきて、「私は大菩薩の使ひです。あなたが大仏殿奉行になったらこれを持ちなさい」と言って笏(しゃく)をくださると言ふ夢である。それがただの夢ではなくて、目が覚めるとそこに実際に笏が置かれてあった。「をかしなことがあるものだな。当節大仏殿が建設されることなどあり得ないではないか」と思ったがともかくもそれを胸にしまって宿所へ帰り、大事に奥の方に収めてをいた。それが平家の悪行によって南都が炎上したものだから、大仏殿は再建工事されることになった。それでこの行隆は弁官の中から選ばれて工事責任者になったのである。この様な宿縁があったのもめでたいことではある。

港の夜景