平家物語 巻第五 「物怪之沙汰 4」

2023-09-28 (木)(令和5年癸卯)<旧暦 8 月 14 日>(先負 己丑 五黄土星) Lennart Leonard    第 39 週 第 27260 日

 

それからさらには、源中納言雅賴卿のもとにゐた青侍が見たといふ夢も恐ろしいものであった。詳しく言ふと、大内の神祇官らしいところに、束帯をきちんと身につけた上臈たちがたくさん集まって会議をしてゐた。するとその末座に座って平家の味方の意見を述べたらしい人が会議の場から追っ立てられた。その青侍は夢の中で「あのお方はどなたでせうか」とある老翁に聞いてみた。すると老翁は「厳島大明神(平家の守護神)」と答へられた。その後、一座の上席に座ってゐた気高げな老人が「この日ごろ平家が預かってきた節刀を、今は伊豆国の流人頼朝に与へよう」と仰られた。そのおそばにゐた別の老人が「その後はわが孫にもお与へくだされ」と仰られた。夢の中で青侍はその老人たちが誰々であるかを順々に質問した。「節刀を頼朝に与へよう」と仰られたのは八幡大菩薩(源氏の守護神)、「その後はわが孫にもお与へくだされ」と仰られたのは春日大明神(藤原氏氏神)、この様に申す老翁は武内の大明神(石清水八幡宮に祀られた武内宿禰)」と仰られる夢を見て、このことを周りの人に話した。その話を漏れ聞いた清盛は、源大夫判官季貞を雅賴卿のもとへ使ひに出し、「夢見の青侍をいそぎここへ連れて参れ」と出頭を求めた。だが、その青侍はたちまち逃げてしまった。雅賴卿は急いで清盛のところへ出かけ、「全くそのような話はございませんでした」と陳謝したところ、この話は一応それでおさまった。平家は日頃は朝家の警備にあたり、天下を守護して来たけれども、今は勅命に背くことをするので、節刀も召し返されるといふことであらうか、心細いことではある。

一面に霧がかかった。外に出ると霧で身体が濡れる感じがした。やがて霧雨になった。