平家物語 巻第四 「宮御最期 3」

2023-03-26 (日)(令和5年癸卯)<旧暦 2 月 5 日>(赤口 癸未 八白土星)Emanuel  第 12 週 第 27074 日

 

三位入道は七十を過ぎてのいくさである。左足の膝に矢を受けて重傷を負った。心静かに自害せんとして、平等院の門のうちへひき退いた。そこへ敵が襲ひかかってくる。次男源大夫判官兼綱、紺地の錦の直垂に、唐綾威の鎧着て、白葦毛なる馬に乗り、父を遠くへ逃がさうと、返し合はせ返し合はせ防戦した。だが、上総太郎判官が放った矢にかぶとの正面の内側を射られてひるんだ。すかさずそこへ、上総守が召し抱へる童で次郎丸といふしたたかものが馬を押し並べ来て競り合ひ、共にどんと落ちた。源大夫判官兼綱はうち甲に痛手を受けながらも、世に聞こえた大力のものであったから、この童を取って抑へて頸をかいた。そして立ちあがらうとしたところに、平家のつはものどもが十四五騎、ひしひしと落ち重なって、つゐに兼綱は討たれてしまった。伊豆守仲綱もあちこちに深い傷を受けて、平等院の釣殿で自害した。その頸を、下河邊の藤三郎清親が取って、平等院本堂の広縁の下へ投げ入れた。敵に首級を持って行かれないやうに隠したのである。六絛蔵人仲家、その子蔵人太郎仲光も、さんざんに戦ひ、たくさんの分どりをした後に、つゐに討死した。この仲家と申すは、帯刀先生義賢の嫡子である。みなしごであったのを、三位入道が養子にして可愛がってやってゐたが、日頃の契りを変ぜず、一所にて死んだのはいたはしいことである。

スウェーデンでは今日から夏時間であるが、寒の戻りの気配もある