平家物語 巻第五 「物怪之沙汰 1」

2023-09-25 (月)(令和5年癸卯)<旧暦 8 月 11 日>(赤口 丙戌 八白土星) Tryggve    第 39 週 第 27257 日

 

福原への遷都の後は、平家の人々は夢見が悪い。心が騒ぐ感じがあって、変化のものが多く現れるのであった。ある夜、清盛が横になってゐると、一間に入りきらないほど大きな顔が現れて清盛の寝室を覗いた。清盛はちっとも騒がずにはったと睨みつけると、みるみるうちに消えてしまった。岡の御所といふところは新しく作られた御所で、特に大木があるわけでもないのだが、ある夜、大木が倒れる様な音がした。二、三十人はゐるかと思はれるほどの人の声がしたかと思ふと、ドッと笑ふ声になった。これはきっと天狗の仕業でもあらうかといふことになって、対策本部が設けられた。蟇目を射る当番が決められたのである。蟇目とは紡錘型の先端をそいだ形の木製の鏑のことで、射ると音を出す矢である。夜は百人、昼は五十人といふ体制で蟇目を持って当番で見回った。蟇目を射ると、天狗のある方へ向いて放った時には音もせず、ない方へ向いて放った時には「ハハハ」と笑ふ声がするのだった。

家の玄関から見たお彼岸の夕日。