平家物語 巻第四 「鵼 3」

2023-05-12 (金)(令和5年癸卯)<旧暦 3 月 23 日>(先勝 庚午 一白水星)下弦 Charlotta Lotta  第 19 週 第 27121 日

 

堀河天皇の御代にもその様なことがあったのなら、先例に任せて、今回も武士に命じて警固させてはどうか。公卿たちはその様に言ひ合った。それで源平両家のつはものどもの中からの人選となり、頼政がその任にあたることになった次第である。頼政はその時はまだ兵庫守であった。ひとりごとの様に「昔より朝家に武士を置かれるのは、謀反を起こすものを退けたり、違勅のものを滅ぼすためではなかったか。目にも見えぬ怪物を退治せよといふ命令など聞いたこともないわ」と言ひつつも、勅定であるので言はれるままに参内した。心の底からあてにしてゐる郎等、遠江国の住人、井早太ただひとりを伴っての参内である。早太は、ほろ羽の中にある風切といふ短い羽をはいだ矢を負ってゐる、頼政自身は表と裏との色が同じ二重の狩衣を着て、山鳥の尾をもって左右に張った鋭いやじりのついた矢を二すぢ、滋籐の弓にとりそへて、南殿の大床に待ち構へた。頼政が矢をふたつ持ったといふことは、左少弁に任じられた源雅頼が「怪物退治にあたることができるのは頼政であらう」と推薦した手前、万一、一の矢に怪物を射損じた場合は、二の矢には雅頼のやつめの首の骨が射られるであらうとの意思表示であった。

家のまえの夕景