あかねさす ー 蒲生野の歌

2022-11-18 (金)(令和4年壬寅)<旧暦 10 月 25 日>(仏滅 乙亥 四緑木星) Lillemor Moa 第 46 週 第 26946 日

 

あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る (額田王

紫草の 匂へる妹を 憎くあらば 人妻故に 我恋ひめやも (大海人皇子

 

万葉集で最も人気の高い歌を並べたら、多分ベストテン入りするのではないかと思はれるのが、蒲生野での額田王大海人皇子のこの歌のやりとりである。「天上の虹」の第2巻にもこの場面がある。実際に広い蒲生野に遊んだその現場でこの歌が詠まれたといふよりは、そんな行事の後の宴の場でこの歌が詠まれたといふことに、「天上の虹」ではなってゐて、それはなるほどと思はせるものがある。額田王大海人皇子はかつて仲睦まじい間柄であったのだが、この歌が詠まれた時には額田王大海人皇子の兄上である中大兄皇子と結ばれてゐた。額田王中大兄皇子との間にはお子がなかったが、大海人皇子との間には皇女があって、十市皇女と呼ばれた。そんな関係も、歌と関連づけるとイメージが膨らみやすいが、ただ百科事典の系図だけ眺めてゐても、覚えられないものだと思ふ。この十市皇女大友皇子のお妃になるのだが、やがてその先に辛い運命が待ってゐて、つまり、夫の大友皇子と父の大海人皇子が戦ふことになる。「天上の虹」の壬申の乱のところまで行ってないのでどんな展開になるのかわからないが、過酷な運命が待ち受けてゐるんだと思ふ。ただ、中国の歴史の中ではその様な運命は割とあるのかもしれない。BC697年、河南省の鄭の国に雍姫といふ女性がゐて、その夫が父を郊外でご馳走すると誘ひ出して殺す計画があることを知ってしまふ。雍姫は自分の母に遠回しに質問する「父と夫といづれか親しき」。母は答へる「男たちはたくさん居る。その誰にも夫になる資格がある。けれども、父はひとりしか居ないのだよ。比較にならないね。」それで、まだ幼い雍姫は父に陰謀の次第を打ち明けるといふエピソードがある(吉川幸次郎「漢文の話」)。そんなに単純に割り切れないと思ふのだが、、。十市皇女にとってはどうであったのだらう。「父と夫といづれか親しき」。

気温は1℃。スウェーデンの今年の冬はそんなに寒くならないといふ予報もある。