平家物語「烽火之沙汰 2」

2021-02-20 (土)(令和3年辛丑)<旧暦 1 月 9 日> (先負 己亥 九紫火星)上弦 Vivianne  第 7 週 第 26307 日

 

太政入道(清盛)が一番頼りにしてゐた内府(重盛)はこんなことを言ひ出したものだから、清盛は力を落として、「いやいや、そなたがそこまで思ひつめてをるとは思ひもよらなかった。悪党どもが言ふことに後白河法皇がお付きになってしまって、間違ったことがこれから起きるのではないかと心配したまでのことよ」と言った。重盛は「たといどんな間違ったことが起きたとしても、法皇のご身辺だけは何よりもお守り申し上げなければなりません。」と言って、無造作に立ち上がり、中門に出て、侍どもに向かって話し始めた。「ただいま重盛が申したことを皆も聞いたであろう。今朝からこの西八条に来てゐる。もっとここに留まって、引き続き申したい気持ちもあるが、それではあまりにも甚だしく騒いでゐる様に見えてしまふので、私はこれにて帰ることにする。父・清盛のお供をして院に攻めて行かうと思ふものがあれば、それは重盛の首が刎ねられてからにせよ。それから後なら行っても良いぞ。」と言って小松殿へ帰って行った。

重盛はさらに主馬判官盛國をよんで、「重盛こそは天下の大事を特に聞き出したものである。「我を我と思はず、我が命をかけてかまはぬと思ふ者共は皆、いくさの用意をして急ぎ参れ」と披露せよ」と命令した。盛國は言はれた通りに皆に向かって檄を飛ばした。重盛は並大抵のことでは周囲を騒がせる様な人でないことを皆知ってゐる。その重盛がこれだけの召集命令を出すからには余程のことであるに違ひないとばかりに、誰もが武具を身につけて我も我もと小松殿に駆け寄った。平安京周辺の各地、淀・はづかし・宇治・岡の屋、日野・勧修寺・醍醐・小黒栖、梅津・桂・大原・しづ原、せれうの里に散らばってゐたつはものどもは、あるいは鎧を着てまだ甲をつけてないものがあり、あるいは矢を背負ってまだ弓を持ってないものがある。馬の片方のあぶみに足をかけるかかけないかのままで、あはて騒いで馳せよった。

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森の中の雪も融けつつある。