紅旗征戎、吾が事に非ず

2023-10-25 (水)(令和5年癸卯)<旧暦 9 月 11 日>(先勝 丙辰 五黄土星) Inga Ingalill   第 43 週 第 27287 日

 

藤原定家は平安末期の歌人として有名であるが、日記をつけてゐて、その日記の名前を「明月記」と言った。高校1年の古文の授業であてられて答へられなかった。その時以来、日記の名前だけは覚えたのだが、むろん読んだことはない。原文は漢文であるらしい。昔、上野の博物館で展示があったときにガラス越しに見た様な気がする。角張った感じの筆跡であった。先日、額賀衆議院議長が、臨時国会の開会式で手順を誤って自分の読んだ式辞の紙を天皇陛下に渡してしまったといふ記事を新聞で読んだ。定家の時代の貴族の仕事は宮中での儀式、法令、作法を心得てゐて、その順序を間違へないことであったと聞く。またその作法が複雑であるので、定家はメモして覚えるために日記をつけたのだと、どこかで聞いたことがある。「明月記」は時々いろいろなところで引用されるが、そこに出てくる有名な語句のひとつに「紅旗征戎、吾が事に非ず」といふ言葉がある。難しい言ひ回しだが、結局、「戦争なんかオレの知ったことか」といふ意味である。これを記した当時、定家は19歳であったといふ。現代の僕らもウクライナパレスチナで戦争があっても、そんなこと僕らと関係ないやと思ってしまふ。権力を争ふもの同士だけで戦ふのならそれで良いかもしれないが、多くの一般市民を巻き込んでの戦争であれば「オレの知ったことか」とは言へないのではないか。ただ、親族同胞を戦争で亡くした人の悲しみにどこまで深く心を寄せられるかは難しい。うわべでは「戦争反対」と唱へることができても、心の中では「どうにも仕方のないこと」と思ってしまふ。それで戦争はいつまでも続く。

どんよりと曇った一日であった。