Taylor Wilson の小型核分裂炉(2)

2023-07-08 (土)(令和5年癸卯)<旧暦 5 月 21 日>(先勝 丁卯 六白金星) Kjell   第 27 週 第 27178 日

 

従来から日本にある商業用原子炉は、そのほとんどがPWR型かBWR型である。PWR型の原子炉は比較的小さな圧力容器であるが、隣接して置かれた蒸気発生器で大量の蒸気を出すために、蒸気発生器の方は巨大な圧力容器になる。その内部には幾千もの細管がめぐらされてあって、高圧で原子炉と蒸気発生器の間を循環する1次冷却水と、蒸気となってタービンに行く2次冷却水とはこの細管を境にして熱のやり取りをする。この細管の両側の圧力差は非常に大きいので、ストレスがかかり長い月日のうちには材料が疲労しやすい。一方で、BWR型は原子炉本体の中でいきなり蒸気を生み出すので、その原子炉圧力容器は大きなものになる。原子炉の中にある核燃料は表面がジルコニウムで覆はれるが、周囲に冷やしてくれる水がなくなると高温になって溶ける。高温のジルコニウムが水蒸気に触れると激しい化学反応を起こし、水が分解して水素ガスが発生する。万一その様な恐ろしいことが起きた時のために、発生した水素ガスを再結合させて水に戻す設備もあるのだが、福島第1発電所の全電源喪失事故では、電源がないためにその設備も威力を発揮できなかった。それで発生した水素ガスが漏れ出して原子炉建屋に充満し爆発に至った。この様に見ると、そもそも大量の水蒸気をタービンに送り込んで発電するといふやり方が根本から見直されなければならないのではないか、といふのが Taylor Wilson の提案する核分裂炉の基本である。大量の水蒸気をタービンに送り込んで発電するといふやり方は歴史が古く、従来の火力発電でもその通りであるが、原子力発電ではその熱源を原子力に求めてゐるだけである。一般の火力発電では発生する蒸気を思ひきりカンカンに熱くして発電効率を高めてゐる。原子力発電では蒸気をあまりカンカンにギリギリまで加熱すると原子炉の安全性に差し障る恐れがあって、少し条件を低めにした蒸気を使ふ。その分、原子力発電では発電効率が低い。福島の原子力事故は様々に原因究明がなされてゐるが、そもそも大量の水蒸気をタービンに送り込んで発電するといふやり方が根本から見直されなければならないといふ指摘は、まさにイノベーションだと思ふ。福島の事故を通じて「これで原子力はダメだといふことがよくわかったであらう」といふ見方に直ちに走るのではなくて、原子力をもう一度社会の安全で安定した重要なエネルギー源として立ち返らせるためには、津波の防波壁の高さがどうだとか、原子炉の運転期限をのばさうとかいふ次元の議論ではなくて、まさにこの様なイノベーションを通じてしか実現できないのではないかと思ふ。

雲間に時々稲妻が走った、と思ふと低い空に薄い虹がかかった。