平家物語「少将乞請4」

2021-01-08 (金)(令和3年辛丑)<旧暦 11 月 25 日> (大安 丙辰 八白土星) Erland   第 1 週 第 26264 日

 

丹波少将成經は、宰相(平教盛)が清盛の屋敷から出て来るのを見ると、「いかがでしたでせうか」とすがる様に尋ねた。「兄の清盛はあまりに立腹で、たうとう対面もできなかったよ。成經の助命など到底受け容れられないと繰り返し言はれたものだから、それなら私は出家入道しますとまで言ひ張ると、しばらくはそなたを私の家に置いてもかまはぬといふことになった。だが、末長くうまくいくとも思はれない。」少将は「あなた様のご恩をもって、この成經はしばらくの命をのばしていただくことができたのですね。それで、我が父の大納言のことはどの様に聞いてくださいましたか」「それまでは思ひもよらなかったぞ」すると成經は、ハラハラと涙を流して「誠にあなた様のご恩をもって、しばしの命をのばしていただいたことは、それはそれでもちろん嬉しゅうございますけれども、この命が惜しいと思ふ気持ちも、ひとへに父上にいま一度お目にかかりたいと思ふからこそです。父上が斬られておしまひになるなら、この成經とても、生かしていただいて何の甲斐もありません。どんなご処分であれ、ともかくも父上といっしょになれる様に申し上げてはいただけないでせうか」と言った。宰相はいかにも心苦しい様子で、「さあ、どうかな。お前さんのことを交渉するだけで精一杯であったからな。そこまでは思ひもよらなかったぞ。だが、大納言のことについては、重盛が今朝、さまざまに命乞ひをしてゐたから、しばらくの間はそちらの方も安心である様に承ってをるぞ」と言った。これを聞いて少将は泣く泣く手を合はせて悦ぶのであった。子でなければ、誰が只今我が身の上をさしをひて、これほどまでに悦ぶであろうか。前世からの縁にはいろいろあるが、その中でも本当の縁といふものは親子の中にあるものだ。人はやはり子を持つべきであるなと、宰相はさっきとは反対のことを思ひ返すのであった。それから今朝来た時と同じ様に同じ車に乗って、二人は家に帰った。家で待ち受けてゐた女房たちは、まるで死んだ人が生き返って来たものの様に思はれて、みな、涙にむせんで悦ぶのであった。

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冬の間は夕食後の散歩は暗いので短めにして、昼の散歩を少し長めにとる様にしてゐる。