敗戦直後の国語の試験

2019-07-26 (金)(令和元年己亥)<旧暦 6 月 24 日>(大安 甲子 三碧木星) Jesper 第 30週 第 25733 日

 

先の戦争が終はって進駐軍が日本にやって来た時、彼らは漢字を悪魔の文字だと感じた。日本がアメリカに対して無謀な戦争をやったのは、文字を知るのは軍の一部のエリートたちだけであって、彼らが文字の使用を独占し、一般国民は何も知らされてなかったのではないかと想像した。26文字だけの組み合はせで言語を形成する人から見れば、漢字といふあんなにややこしい大量の文字を一般人が使ひこなせるわけはないとも感じたかしれない。それで、この際、日本語を廃止して、国民の使用する言語を我々が使ふこの素晴らしい英語に置き換へてはどうかと彼らは考へた。志賀直哉までもが日本語廃止に賛同して、置き換へるならフランス語が良いと述べたことは有名である。長い日本語の歴史でこの時ほど危機を迎へたことはなかったのではないか(ついでに書き添へれば、僕の小学校時代には日本語の物語などをローマ字で読み書きさせられる授業があった)。しかし、アメリカの精神の合理的であったところは、一国の国語の英語への移行を直ぐに実行に移すのではなく、あらゆる階層に属するあらゆる職業の老若男女を対象に国語のテストを実施したことである。テストの結果は驚くべき高得点であった。これだけ日本語があまねく国民に行き渡ってゐるなら、英語への移行を断念せねばなるまいと彼らは判断せざるを得なかった。わづか70年前のあの時代の平均的日本人の水準に僕は限りない敬意と憧憬を抱くものである。現代の日本が抱へてゐる諸問題は、煎じ詰めれば言葉から報復を受けてゐるのである。現代は、機械翻訳が発達して、言葉とは単に記号であると感じる人も多くなってゐるのではないかと危惧する。終戦直後の危機に匹敵するほどの大きな日本語の危機を今、僕らは迎へてゐるのかもしれない。

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夕方にしては明るい空。このところ晴天が続き、30℃を超えることもある。