菊池寛の芥川への弔辞

土 旧暦 1月21日 先負 丁卯 一白水星 Ernst Erna V9 23398日目

芥川龍之介への弔辞といえば菊池寛のものが有名であるが、何かの本で佐藤春夫が書いたものを読んだことがあって、それにもひどく感動した記憶がある。司馬遼太郎への弔辞を田辺聖子陳舜臣が書いていて、これも深く心に残った。一般に弔辞など決まり文句を並べてもすむものかもしれないが、感極まったあの挨拶をもう一度読んでみたいと思わせるような、人の記憶に残るほどの文章の力とはすごいと思う。菊池寛の書いた弔辞には「たゞ我等は 君が死面に 平和なる微光の漂へるを見て 甚だ安心したり」というくだりがある。この一文に最近の僕はかすかな痛みを覚えるようになった。それはひどく個人的な体験から来るものであるが、自分の母の死を思い起こさせるからだ。母は交通事故で亡くなったので、平和な安らかな死ではなかった。その死面の表情にも苦しみが影を落としているように思われてならなかった。今更せんないことではあるが、あのような思いのままで旅立たせてしまったことが僕には消えぬ負い目として残った。不肖の息子は不肖のままに、とうとうしまいまで母親を安心させることができなかった。今でも僕は布団にもぐりこむと小さな声でつぶやいてしまうことがある。「ごめん、母ちゃん」と。