平家物語 巻第六 「小督 4」

2024-08-21 (水)(令和6年甲辰)<旧暦 7 月 18 日>(赤口 丁巳 一白水星) Jon Jonna  第 34 週 第 27584 日

 

嵯峨のあたりの秋の夕暮れはことに寂しい。藤原基俊の歌に

 

牡鹿なくこの夕里の嵯峨なれば悲しかりける秋の夕暮

 

とある通りである。片折戸してある家を見つけては馬をとめ「ここに居られるかもしれない」と、仲國は尋ねて歩くのだが、琴を弾く様な家も見当たらない。どこかのお御堂へお参りなさることもあるかしれないと思ひ、釈迦堂(清涼寺: 京都市右京区嵯峨釈迦堂藤ノ木町にある浄土宗の寺院で、通称は今も嵯峨釈迦堂と呼ばれる)をはじめとして、その周辺のお堂を見て回ったけれども、小督殿に似た感じの女の人は見つからなかった。「やっぱりだめでしたよ、と言って帰るくらいなら、なまじっか引き受けない方が余程ましだったよね、これからどっちを向いて迷ひ行けば良いのだらう」と思案に暮れるのだが、どこへ行っても天子さまのご領地でないところはない。この身を隠す場所もないのだな、やれやれどうしようか、と思ひわづらふのだった。「少し南に下がって桂川をわたり、嵐山の方へ行ってみやうか。法輪寺はここからさほど遠くもないし、月の光に誘はれて、そこに小督殿がゐらっしゃるかもしれない」と思ひ直して、そちらの方へ向かって歩いて行った。

フィーカにお呼ばれした