平家物語 巻第六 「小督 2」

2024-08-18 (日)(令和6年甲辰)<旧暦 7 月 15 日>(先負 甲寅 四緑木星) Ellen Lena  第 33 週 第 27581 日

 

この様ないきさつが入道相国の耳に入った。入道相国にとっては、中宮徳子は我が娘である。一方、冷泉大納言隆房卿の北の方も我が娘である。言ってみれば、小督殿にふたりの婿を取られてしまった形になった。「いやいや、小督が居るかぎり、世の中はよかるまじ、めしいだいてどこかへやってしまはう」と言はれた。小督殿はその話をもれ聞いて、「私のことはどうなってもかまひません。君の御ために心苦しいことです」と言って、ある暮れ方に内裏を出て、どこかへ行ってしまはれた。天皇はお嘆きになった。昼はご寝所に入られたままで涙にむせび、夜は紫宸殿にお出ましになって月の光をご覧になりお心を慰められるのだった。入道相国はこれを聞いて、「君は小督ゆへにお気持ちが沈んでゐらっしゃるのだ。さういふことなら私にも考へがある」と言って、お世話を申し上げる女房たちも出入り禁止、臣下が何かの用事で参内してくるのも邪魔だてなさった。すると入道の権威にはばかって、宮中へは誰もやってこなくなった。あたりには暗い雰囲気が漂ふばかりである。

裏庭に来て休むウサギ