平家物語 巻第四 「信連(のぶつら) 4」

2022-09-24 (土)(令和4年壬寅)<旧暦 8 月 29 日>(赤口 庚辰 五黄土星) Gerhard Gert 第 38 週 第 26891 日

 

さつき十五夜の雲間の月が現はれ出でて地上は明るい。相手は家のつくりや勝手がよくわからない。それに対して信連の方は勝手知ったる御所である。あそこの馬道(二つの建物の間にある取りはづし可能な渡り廊下)に追っかけては、はたと切り、ここのつまり(行き止まり)に追ひ詰めては、ちゃうど切る。「宣旨の御使(検非違使の命令書を持った使ひ)に向かってどうしてこんなことをするのだ」と相手が言ふ。「宣旨とはなんぞ」と答へて、太刀がゆがめば踊りのき、太刀を押して直し、踏んで直し、たちどころに強い者共十四、五人を斬り伏せた。が、太刀の先三寸ばかりが打ち折れた。腹を切らうと腰をさぐれば、鞘巻き(つばの無い短刀)が無い。どこかに落としたらしい。力及ばず、大手を広げて、高倉面の小門より走り出やうとした。そこへ大薙刀を持った男が一人寄って来た。信連はその薙刀に乗らうとして飛んでかかったが、乗り損じて腿を縫いざまに貫かれた。心はたけく思へども大勢の中に取りこめられて、生け捕りにされてしまった。その後御所を探したが、高倉の宮はおいでにならない。信連ばかりをからめて、六波羅へ引いて帰った。

秋の夕暮れ