平家物語 巻第四 「信連(のぶつら) 2」

762022-09-22 (木)(令和4年壬寅)<旧暦 8 月 27 日>(仏滅 戊寅 七赤金星) Maurits Moritz 第 38 週 第 26889 日

 

さて、高倉の宮が出発された後、長・兵衛尉信連は御所で留守番することになった。御所にはまだ女房たちが何人か残ってゐたが、立ち去らせたり隠れさせたりした。また、部屋が見苦しくなってゐないか、もし何かその様なものがあれば取り片付けようと、部屋を見て回った。すると、宮様御秘蔵の、小枝といふ名の御笛が、いつもの御居間の枕元に忘れて置かれてあった。信連は「これは大変だ。もし宮様がこのことに気づかれたら、立ち帰ってでも取って来たいとお思ひになるのではないかな」と思ひ、御笛を手に取ると大急ぎで追ひかけて、五町ほど(500m から 600mくらいか)走ったところで追ひついた(二条通り近くまで行ったかも)。御笛を差し上げると、宮様は大変お喜びになって、「私がもし死んだら、この笛を御棺に入れて欲しい」とおっしゃるのだった。「このままお供をして来てくれないか」ともおっしゃるのだが、信連は「ただいま、御所へ検非違使庁の役人どもがやってまいります。その時、御前に人ひとりもゐなかったらたいそう残念に思はれます。信連がこの御所にいつもゐることは、上も下も皆知ってゐることなので、今夜に限ってゐないとなると、さては逃げたなと思はれてしまひます。弓矢とる身としてはかりそめにも名こそ惜しゅうございます。しばらく役人どもの相手をして、打ち破って、それからお供いたします。」と言って走って帰るのだった。長・兵衛のその日の装束は、薄青の狩衣の下に、萌黄威しの腹巻を着て、衛府の太刀をはいてゐた。三条大路に面した惣門も、高倉小路に面した門も共に開いて、役人どもを待つのだった。

Stockholmsvägen の秋