平家物語 巻第五 「月見 2」

2023-09-06 (水)(令和5年癸卯)<旧暦 7 月 22 日>(仏滅 丁卯 九紫火星) Lilian Lilly    第 36 週 第 27238 日

 

徳大寺の左大将實定の卿(この時41歳)は近衛河原の大宮の御所に行き、供のものに惣門をたたかせられた。すると、うちより女の声がした。「どなたですか、この様な蓬生の露うちはらふ人もない場所に訪ねて来られるのは」と咎める様に言はれたので、「福原より大将殿が参られたのですよ」と答へた。「惣門は錠がさされてあって開きません。東おもての小門よりお入りください」と返事があった。それならと、大将は東の門に回られた。大宮は御つれづれに、昔を思ひ出してゐらっしゃるのか、南おもての御格子をあげて、御琵琶をおひきになってゐるところであった。そこへ大将が現れたので、「いかに、夢かやうつつか、これへこれへ」と仰せになるのであった。源氏物語・宇治十帖の「橋姫」には、八の宮の居ない宇治邸に薫が来て、琴と琵琶とを合奏する姫君たちを垣間見る場面がある。姫君たちは秋の名残を惜しみ、琵琶を調めて夜もすがら一心に演奏してゐらっしゃる。やがて有明の月がのぼる。その月を琵琶のばちでお招きになったといふ物語も、今なら、なるほどと思はれる様な風情のときであった。

我が家の庭は隣の庭と続いてゐて境界がない