平家物語「有王 1」

2022-01-02 (日)(令和4年壬寅)<旧暦 11 月 30 日> (仏滅 乙卯 九紫火星) Svea 第 52 週 第 26632 日

 

さて、鬼界ヶ島に流された流人のうち二人は召し返されて都へのぼることが出来た。しかし、俊寛僧都ひとり、つらい島での島守となって残されてしまったことは不可解である。僧都には召使があった。幼い頃から可愛がってゐた童で、名を有王と言った。鬼界ヶ島の流人が今日いよいよ都に入ったぞと噂が立ったので、有王は鳥羽まで出かけて行って我が主を探した。しかし、僧都の姿は見えない。「どうしてですか」と尋ねると「それはなほ罪深しとて、嶋に残されたのだよ」との説明を受けて、唖然となってしまった。悲しいなどと形容するのでは到底おさまるものではない。六波羅のあたりをあっちに立ちこっちに立ちして聞いてまはったけれども、赦免があるであろうとの情報はなかった。僧都の御むすめの、人目を忍んで住んでゐらっしゃるところを訪ねて、「このたびの恩赦の機会に漏れておしまひになって、都には帰ってゐらっしゃらなかったのです。かうなったからには、何としてでも私がかの島へ渡って、お行方を尋ねて参る所存です。あなたからお父上へのお手紙をお預かりしませう。」と申し上げると、娘は泣きながら手紙を書いて、それを有王に託したのだった。

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昨夜のうちにうっすらと雪が積もった。