働き方改革がうまくいかない理由

2019-04-25 (木)(平成31 年己亥)<旧暦 3 月 21 日>(大安 壬辰 五黄土星) Markus 第 17週 第 25642 日

 

まもなく日本は10連休に入るとのことである。10日も休めるといふことは、働き方改革が次第に浸透して来たことのあらはれとみるべきなのかもしれないが、僕はさうは思はない。日本ではなかなか働き方改革が進まないと思ふ。なぜ進まないのか、僕は密かに思ふことがある。スウェーデンでは残業した場合に、それを別の休暇の形で受け取るか、お金で受け取るかを選択できることが多い。働き方の考への進んだ国に引っ越した僕ではあったが、僕はすぐには考へ方を変へることができなかった。残業代はいつでもお金でいただく方を選んだ。といふのも、僕には以下の様な事情があったからである。スウェーデンに来た当初は代用社宅に住んでゐたが、その家の持ち主の都合で約1年で出なければならなくなった。それでアパート探しが始まった。日本の様な賃貸アパートはなかった。まとまったお金を用意しなければ入居できないところばかりであった。そんなお金はないし、安定した日本の職場を去って周囲の反対を押し切って移って来たから、日本の親に相談することもできなかった。いつまでこの地に居ることになるのか予想がつかない不安と、いつクビになるかもわからない不安を抱へながらも、僕はともかくも銀行へ行ってローンを借りた。よく見ず知らずの東洋から来た外国人に、保証人もなしで大金を貸してくれたものだなと今でも僕はその銀行に恩義を感じてゐる。日本の銀行ではありえないのではないか。今から思ふとあれは奇跡であった。この様にしてともかくも今のアパートに入ることができた。だが、月々わづかづつしか返せないので、組まれたローンは実に50年であった。すでに40歳であったから 90 歳まで借金が続く計算になる。そんなに生きてられないのではないか?僕は焦った。最初のうちは返しても返しても利息を払ふだけで負債が減らず、途方にくれた。やがて、ローンの組み換へができる時期が2年に一度あることを知り、2年ごとにそれまでに溜まったお金を充てて少しづつ負債を減らして行った。50年ローンはやがて40年になり、30年になり、20年になり、10年になり、5年になり、といふ風に次第に軽くなって行った。そしてついに2009年9月27日、還暦の年に全額を返済したときは本当に肩の荷が降りた気がした。さて、その様な状況にあって、少しでも早くローンを返したかった僕には、残業代の代はりに休暇をいただくといふ選択肢はとても取ることができなかったのである。働き方について思ひをめぐらすことができる様になったのは、借金がなくなってから後のことである。今の日本でも、何人かに聞いてみると良い。「あなたは残業代を受け取る代はりに、もし別の休暇を取ることを選ぶことができたとしたら、どちらを選びますか」と。もし、別の休暇をもらふ方が良いと答へる人が多ければ、働き方改革は成功してゐると言へるのである。多くの人は、「忙しいのは一向に構はないからお金が欲しい」と心の底に思ふのではないか。その心理が崩れない限り、働き方改革は進まない。もっと言へば、働き方改革を叫ぶ人たちは、借金を持たない人たちが借金を持つ人たちの苦しみを知らずに言ってゐるだけといふことはないだらうか。

 

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我が家に一番近い桜も咲きました。