卵のはなし

水 旧暦 8月3日 仏滅 庚午 六白金星 Rolf Raoul V35 23940日目

卵を使った食べ物なら僕は大抵好きだ。生卵も好きではあるがご飯にかけることはしないで、別に食べる。が、スウェーデンでは僕は殆ど生卵を食べる事が無い。こちらの人は、例へばすき焼きの食べ方を紹介しても、肉などを生卵につけて食べるのを気味悪がる人が多い。郷に従ふが良いかも知れないと思って僕も生では殆ど食べない。僕がスウェーデンに来たのはチェルノブイリ原発事故があって間もなくのことであった。チェルノブイリからはうんと離れてゐるのに、当時はスウェーデンでも地域によってはかなり放射能で汚染された。30キロ範囲などと言ふ生易しいものではなかった。ヨーロッパ中が危ないと言ふ人も居た。それで僕も食べ物は大丈夫かなと内心心配であった。しかし、周りの人たちはスーパーで買ったものを平気で食べてゐる。自分だけが「大丈夫でせうか」と聞くのは憚られたし、他に方策がある訳でも無いので、その事はあまり気にしない様にした。けれどもある日、卵を1ケース買って最初の一つ目を割ってみたら黄身がふたつであった。二つ目を割っても、三つ目を割っても、どれもみな黄身が二つであった。驚いた僕は、この卵は食べない方が良いかも知れないと思って、もったいなかったけど、全部捨てた。しかし、異変の様に思はれたのはその時だけであった。それ以来、黄身が二つの卵を見る事は殆ど無くなった。あれは何だったのだらうかと今でもふと思ふ事がある。夢だったのかもしれない。