古い住所録

日 旧暦 1月10日 仏滅 辛亥 三碧木星 Fanny Franciska V6 23741日目

家のベッドの下には古い書類等が整理されないまま置きっぱなしになってゐる。いつか整理しなければと、もう何年も気になってゐたのだが、その気力が無いままにずっと放っておいた。この頃、退職したせいで暇が出来て、それでその暇にまかせて漸く少しずつ整理を始める様になった。すると、古い住所録が出て来た。古い住所や電話番号など、持っていても何の役にも立たないのだから、そのまま迷はず捨ててしまえば良いものを、アナログ人間の僕にはどうもそれが出来ない。今はもうおつきあいすることもなくなった、しかしかつては友達であった人たちの名前までが忘れ去られて行くのが忍びなくて、そのままには捨てられなかったのである。今はスキャンといふテクニックがあるので、何年版の住所録といふ風にタイトルをつけて機械上だけで保存することにした。僕はスウェーデンに移住した時、まるで日本の社会からドロップアウトする様に、それまでの友達に心の中で別れを告げた。恨む様なつもりは決して無くて、ただ、日本での種々の付き合ひの一切から一度身を引きたかったのだ。世の喧噪を離れてひとり自分を見つめる時間が欲しかったとも言へる。わがままと言へばわがままであるし、その一方で、その後次第に、新しい社会で新しい人たちとのお付き合ひが嫌でも増えて来たものだから、昔の友達には結局疎遠になってしまって、申し訳ない気持である。ゴメンね、と小さくつぶやきながら、古い住所録をスキャンした。

古き地図 花の香りの するやうな

An old map reminds me a faint smell of cherry.