スウェーデンの原子力

火 旧暦 4月26日 大安 己丑 二黒土星 Eivor Majvor V23 22400日目

僕がスウェーデンに移住した頃は、チェルノブイリ事故から間もない頃であった。あの事故はスウェーデンではどんな風であったかを何度となく人から聞かされた。仕事を終えて原子力発電所から引き揚げようとする作業員が管理区域を出る時に放射能の印が出た。おや、君は今日どこで働いたかね、ということになって、直ちに汚染源を突き詰めようと空気が緊張した。ところが次の人もまた次の人も、発電所から続々と出て来る人たちが一様に皆ゲートの警報を鳴らし、彼らは全く別々の場所で作業をしていたので、放射能のもとは空から降って来たに違いないと判断するのに長い時間はかからなかった。汚染は靴の底にあったのである。直ちに気象条件が調べられて、この放射能はロシア方面からもたらされたものであろうと結論付けられた。こうして、ロシアで起きた出来事をいち早く突き止めたのはスウェーデン原子力発電所であった。それから世界の各国はロシアに向かって何が起きたかを明らかにせよと強く迫ったのである。強く迫ってもなかなか事を明らかにしようとしなかったところに僕はこの国の悪意を感じてしまう。この事件があってから世界には原子力に反対する動きが広まった。スウェーデンでも既に1980年に原子力をフェーズアウトする決議がなされていたがその動きに拍車がかかった。ところがその後、大容量の代替エネルギーの開発は思うように進まなかった。そのうちに風向きが変わって、地球温暖化防止のために二酸化炭素を排出しない原子力発電が見直されるようになった。本来ならスウェーデンでは今年2010年に原子力よさようなら、のはずであったのだが、これまでに運転をやめたのはバースベック発電所ばかりで他の各発電所では出力を増加する改造に転じている。既設のタービン出力を増加させて安全への余裕を削るより、いっそ発電所を新設した方が安全じゃないだろうかという気もするが、そうもできない事情があるのだろう。今日のニュースでは議員のひとりが原子力政策への賛成を表明して、ジグソーパズルに例えるとまたひとつピースがはまって原子力政策の全体が見えやすくなったらしい。6月17日にスウェーデン議会で原子力政策に関連する決議があるように見受けられた。やや心配がないわけでもない。「大丈夫だろうか」といつも心配している人は案外大丈夫で、無批判に「大丈夫さ」と思っている人は意外と危ない。その意味で、世界の国々が、原子力の持つ潜在的な恐ろしさにしっかりと目を向けようとしないまま、それぞれ無批判に原子力を進めてしまうとやがて手ひどい仕打ちを受けるのではないか。そうなるとまた原子力反対の嵐が吹く。そのことが心配なのである。