もののあはれ

金 旧暦8月11日 赤口 戊午 三碧木星 Matteus 21409日目11.1℃

どの国の言葉にも、その国ならではの言葉があると思う。その国の人でなければ理解できない概念があるということではない。ある状態を短くひとつの単語で言い表すことのできる言葉を持っているかどうか、ということである。例えば日本には「もののあはれ」という言葉がある。日本人は季節の移り行きの中に感じる心の状態、しみじみとした心の状態をひとつの言葉で表した。それは男と女の間に成立する感情にもあてはまるものとみなされてきた。そのような心の状態はやまとうたを生んだ。古今和歌集の仮名序にも「あはれ」という言葉が見える。しかし「もののあはれ」という使われ方をしたのは源氏物語からであり、それがこの物語の基調をなしていると思うが、そのことをあらためて発見したのは本居宣長であった。本居宣長無くして「もののあはれ」の概念が現代まで生き延びたかどうか、分からないくらいである。僕はそのような国に生まれて良かったと思うが、この頃の日本の世相を見ていると、本当にこれが「もののあはれ」という言葉を生んだ国の有様かと思うことがある。むしろ、スウェーデンに来て豊かな自然と四季の移り変わりを見ながら静かに暮らしていると、この世界でこそ僕は「もののあはれ」を感じるのである。

あはれ知る 人に見せばや 照り紅葉