平家物語 巻第五 「福原院宣 1」

2024-01-16 (火)(令和6年甲辰)<旧暦 12 月 6 日>(大安 己卯 七赤金星) Hjalmar Helmer    第 3 週 第 27370 日

 

伊豆国に流された文覚は近藤四郎国高といふものにあづけられて、奈古屋(静岡県田方郡韮山村地内)の奥に住むことになった。そこから兵衛佐殿(源頼朝)のところへ出掛けては、あれこれと雑談していくのであった。あるとき、文覚は言った。「平家には、清盛の嫡子の小松の大臣殿(重盛)こそ胆力もあり、知謀にも優れておはしたが、平家の運命が末になる兆しであるのか、去年の8月に亡くなられた。今は源平の中に、あなた様ほど将軍の相を持った人はありません。はやく謀反を起こして、日本国を統治なさい。」兵衛佐は「これはまたなんといふ思ひもよらぬことを言ひ出す御房か。私は亡き池の尼御前(清盛の父・忠盛の後妻)に、生きてゐてもあまり望みのない命を助けられた身だ。その後世を弔ふために、毎日法華経一部を読むだけの生活をしてゐるものだ。」と答へた。文覚は重ねて言ふ。「天の与へるものを取らなければ、かへってその咎を受ける。時が至って行はなければ、かへってその災ひを受ける、といひます。こんな風にいふと、あなた様の心をくすぐるためにいふのだなとお思ひですか。私があなた様をどんなに深く思って申し上げてゐるかごらんなさい。」と言って、懐より白い布に包んだ髑髏をひとつ取り出した。

冬の入日