経路積分

2023-12-29 (金)(令和5年癸卯)<旧暦 11 月 17 日>(先負 辛酉 三碧木星) Natalia Natalie    第 52 週 第 27352 日

 

20世紀のアメリカの物理学者リチャード・ファインマンといふ人の最大の業績のひとつは経路積分といふ考へ方を提唱したことではないかと思ふ。この分野の僕の知識は、入門書の入口のレベルで足踏みしてゐるだけで、少しも奥に入っていけないから、詳しいことは何もわからないが、自分の聞きかじった範囲のことをともかくも書いてみる。シュレーディンガー波動方程式量子力学を記述し、ハイゼンベルク行列力学量子力学を記述した。これらは見かけは異なるが実は等価であることがわかってゐる。そこにファインマンは第三の方法を提唱して、それがすなはち経路積分といふ手法である。考へうる多数の経路を足し合はせて解を求めるやり方だ。その手法によれば、歴史はただひとつあるのではなく、多くの異なる歴史がそれぞれ独自の確率をもって存在するのだと解釈される。いま、ウクライナに戦争があり、ガザ地区に戦争があるのも決してひとつの平面的な歴史ではなく、そこに至る多くの経路が足し合はされる結果なのだと思ふ。そしてその経路のひとつは間違ひなく僕自身を通過していく。同時代を生きるものとして、戦争は自分とは縁のないところで起きてゐると思ってしまったら、何も足し合はされるものがなくなってしまふ。それでは戦場に生きる人たちと同時代を生きたことにはならなくなるのではあるまいか。僕は誤解してゐるかもしれないが、サイエンスの知識は人の生き方に大きな影響を与へることがあると思ふ。

冬の夕暮れ