平家物語 巻第五 「勧進帳 1」

2023-12-11 (月)(令和5年癸卯)<旧暦 10 月 29 日>(友引 癸卯 三碧木星) Daniel Daniela    第 50 週 第 27334 日

 

京都・嵯峨野の北方の山奥に高雄といふところがある。文覚は京に戻るとそこに住んだ。神護寺といふ山寺がある。昔、称徳天皇の御時、和気清麻呂が建てた伽藍である。長く修理されることもなかったので、春は霞に立ち込められ、秋は霧に交はり、扉は風に倒れて落葉の下に朽ち、甍は雨露にをかされて、仏壇もむき出しである。そこに住んで管理するお坊さんも居ないので、まれにさしいるものといへば、月日の光だけである。「これは何とかしなければいけない」文覚はさう思ひたって勧進帳を書いた。勧進帳とはお寺の縁起などを書いたもので、それを見せて説明し、人々から寄付を集めやうとしたわけである。施主になってくれる人を探して方々を回った。ある時、院御所・法住寺殿へもやってきた。「寄付をお願ひします」と大声で呼ばはるのだが、どうも奥の方で管弦を奏してゐるやうで、誰も応対に出てくれない。文覚は天性不敵第一の荒聖(あらひじり)である。御前の事情はよくわからないけれども、ちょっと失礼しますよと言って、遠慮なくお庭の方へ破って入ってしまった。さうして大音声をあげて、「法皇様は慈悲深い君であらせられます。どうしてこのお願ひを聞いてくださらないことがあるでせうか」と言って、その場で勧進帳をひきひろげ、高らかに読み始めたのであった。

気温はプラスだが、時々雪が降った。