平家物語 巻第五 「都遷 8」

2023-08-21 (月)(令和5年癸卯)<旧暦 7 月 6 日>(赤口 辛亥 七赤金星) Jon Jonna    第 34 週 第 27222 日

 

旧都は、あはれめでたかりつる都であった。王城守護の鎮守は、仏が四方に光を和らげて現れ、霊験殊勝の寺々は上京にも下京にも甍を並べ、百姓・万民わづらふことなく、畿内五カ国はもちろん、全国の七街道へも交通の便があった。けれども今は辻々をみな掘って、車もたやすくは行き交ふこともできない。たまさかに行く人もあるが小車に乗り、遠回りをして行かねばならない。軒を争ふ様に栄えた家々も日に日に荒れゆくのであった。家々を壊して賀茂川桂川に運び、筏に乗せる。資財雑具も舟に積む。そんな風にして福原をさして運び下すのであった。花の都が目に見えて鄙びていくのは悲しいことであった。

なにものの仕業であらうか。古き都の内裏の柱に二首の歌の落書きが見えた。

ももとせを四かへりまでに過ぎ来にし乙城(おたぎ)の里のあれやはてな

さきいづる花の都をふりすてて風吹く原の末ぞあやうき

家の庭で取れるrödvinbärs (アカフサスグリ)。同居人はこれをつむのが楽しみ。