平家物語 巻第四 「若宮出家 3」

2023-04-16 (日)(令和5年癸卯)<旧暦 2 月 26 日>(先負 甲辰 二黒土星) Patrik Patricia  第 15 週 第 27095 日

 

なんとなくあたりがものものしい。その様に察した、まだ七歳の若宮は女院に申し上げた。「事がこれほど重大になったのですから、もはや私は逃れられないでせう。早く私を六波羅にお差し出しくださいませ。」すると女院は涙をハラハラと流して「普通の子供の七歳、八歳であれば何事もまだわからない時期であらう。それにも拘らずご自分の事で大事が起こったことを気の毒に思ってこの様に言はれて、なんとまあ、いとおしいことであらう。養育しても何の甲斐もなかった人とこの六、七年関係して、この様につらい目にあってしまったことよ。」と御涙が止まらないご様子であった。頼盛卿は、重ねて「宮をお差し出しください」と催促する。かうなっては女院も力及ばず、つゐに宮を連れ出された。御母の三位の局は、今をかぎりの別れであるので、どんなにかお名残おしう思はれたことであらう。泣きながら御衣をお着せになり、御ぐしをかき撫で、宮を差し出された。これはもうただ夢とのみ思はれたことであらう。女院をはじめとして、その場に仕へてゐた女房や女の童にいたるまで、涙を流し袖をしぼらぬものはなかった。頼盛卿は宮を受け取って、御車にお乗せして、六波羅へと引いて行かれた。

暑からず寒からず。良い一日でした。