平家物語「法皇被流 2」

2022-06-10 (金)(令和4年壬寅)<旧暦 5 月 12 日>(仏滅 甲午 七赤金星) Svante Boris  第 23 週 第 26791 日

 

さて、後白河院はお車にお乗りになった。ところが、公卿、殿上人はひとりのお供もつけられなかった。ただ北面の下臈である金行といふ剃髪の人夫がひとりつけられただけである。それとお車の端に尼御前がひとり。この尼御前といふのはほかならぬ法皇の御乳母、紀伊二位といふお方であった(その夫は保元の乱の時の信西入道)。七条大路を西に向かはれ、朱雀大路の角まで来ると今度は南へ向かはれた。身分の低い賤の男、賤の女が通りの端で「ああ、法皇さまが流されてお行きになる」と言って誰もが涙を流し、袖をしぼった。「こないだの七日の夜の大地震もこのようなことの起きる前ぶれだったのだらうか。世界の底の底までも感応して、大地の守護神が驚かれたのももっともなことだ」と人は言ひあった。

シャクナゲも満開になってきた。