平家物語「法皇被流 4」

2022-06-12 (日)(令和4年壬寅)<旧暦 5 月 14 日>(赤口 丙申 九紫火星) Eskil  第 23 週 第 26793 日

 

憲法印は、清盛の西八条の館へ行った。「法皇が鳥羽殿へ御幸されたとのことですが、御前にひとりの人もゐないと聞きます。あまりに浅ましいことではありませんか。私が行って法皇にご対面申し上げても何の差障りがあるでせうか。この静憲だけは対面に行かせてください。」と申し出ると、「すぐに行きなさい。御房は過失をおこすような人ではないから」と言って許された。早速法印は鳥羽殿へ向かった。門前に着くと車より降り、門のうちへ入って行くと、折しも法皇は声を張り上げ張り上げお経を読んでをられるところであった。そのお声には人の心を震はせるようなものさびしい感じがあった。法院がつっと参上すると、お読みになってゐるお経の上にお涙がハラハラとかかった。法印はそれを見ると、あまりの悲しさにそのお袖を顔に押しあてて、泣きながらおそば近くに進み出た。御前には尼御前がをられるだけである。「どうしたのですか、法印御房。法皇様は昨日の朝、法住寺で朝食を召し上がったあとは夕べも今朝も何もお召し上がりになりません。長い夜も、眠ることもできずにゐらっしゃいます。お命ももはや既に危ういように感じてをられます」尼御前のこの言葉に、法印は涙を抑へてお励まし申し上げるのだった。「何事にも限りはあります。平家がこの二十余年の間、いかに豊かに富み栄えたと言っても、いつまでも続くものではありません。その悪行が限度を越して既に滅び始めてゐます。天照大神、正八幡宮がどうして法皇様をお捨てになるでせう。中でも法皇様が頼みになさってゐる日吉山王七社は、法華経の教へを守護しますといふ誓ひを今でも変へない限り、あの法華経八巻の力によって、きっと法皇様をお守り申し上げるでせう。さうなれば政務はやがて法皇様のもとに戻り、兇徒は水の泡と消えることでせう」法院のこの言葉に、法皇は少しお慰まれあそばしたようであった。

今日は Stockholm で日本人会・補習校の運動会があったのだが、結局見に行かなかった。