平家物語「法印問答 6」

2022-04-16 (土)(令和4年壬寅)<旧暦 3 月 16 日>(赤口 己亥 六白金星) Påskafton Patrik Patricia 第 15 週 第 26736 日

 

(清盛の訴へは続く)「さらに、新大納言成親卿をはじめとする何人かが鹿ケ谷に寄り合って打倒平家の謀反を企てたのは全くの私的な計略ではなかった。全ては後白河院のご許容のもとになされた計略であったのだ。改まって言ふようだが、七代まではこの平家一門をどうしてお捨てになって良いものか。それなのに入道七十にもなって、もはや余命幾ばくもない一期のうちに、どうかすると平家を滅ぼしてしまはうとお考へである。このままでは子孫相次いで朝家にお仕へ申し上げることは期待できさうもない。およそ老いて子を失ふは枯木に枝なきと同じことである。今は狭い世間に気をつかってもどうにもならないことなので、どうにでもなれと思ふようになった次第である。」と言って、立腹したかと思ふと、涙を流される。法印は恐ろしくなったり、また一方では哀れにも覚えて、汗水の流れる思ひであった。この時の清盛の言ひ分は、どんな人でも一言の返答もできさうにない様子であった。その上、法印自身も後白河院の近習のひとりである。鹿ケ谷の陰謀のことは自分も直接見聞きしたことなので、お前もその一味であろうと言って、今、召し取られてしまふこともありうるかと、まるで、龍の髭を撫でるか、虎の尾を踏むかといふ心地がしたけれども、法印も腹の座ったお人で、少しも騒がずに、爽やかに弁舌を始めるのであった。

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今日の写真は同居人提供