最小限の自己主張

2021-03-11 (木)(令和3年辛丑)<旧暦 1 月 28 日> (仏滅 戊午 一白水星) Edvin Egon  第 10 週 第 26326 日

 

東日本大震災では戸籍の原本も津波で流された町があると聞いてゐる。名もなき人の津波にのまれて、その戸籍さへも残らず、この世に生きた日々の記憶が誰にも伝へられずに一生を終へた人もあるかしれない。日本人は自己主張を控へめにすることを美徳とするけれども、限りなく自分を抑へていけば、ついには、「私ここに居ます」といふ最小限の主張さへ消えてしまふかもしれない。どんな世捨て人であっても俗世間に対して最小限の主張はするものだと思ふ。でなければ己の存在そのものを自ら否定することになってしまふ。「身を捨つる人はまことに捨るかは捨てぬ人こそ捨つるなりけり」といふ歌もあるが、自分はどこまで自己主張して良いのかと言ふことで思ひ悩むこともある。宇宙といふものは実は情報だけでできてゐて、人々の記憶に残らなかったことも、焼いてしまった手紙も、湮滅された書類も、すべて宇宙のどこかで正確に再現できる様な心持ちもする。さうであれば、あまり悩むことはないのかもしれない。

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吹雪の夜。寒い。三寒四温といふ言葉が成り立つなら明日は暖かくなる筈だ。