掃除、この生命的なるもの

木 旧暦 12月15日 友引 己亥 九紫火星 満月 Frideborg Fridolf V2 24798 日目

僕は掃除が好きだ。健康であれば誰にだってできる作業だから、掃除をする時間があるなら、その時間に本の一冊でも読めば少しは賢くなれるかもしれないのにとも思ふのだが、また一方で、日常生活の基本をおろそかにして勉強しても大したことはできまいとも思ふので、結果的に、掃除だけして勉強しない毎日を続けてゐる。だが、掃除は僕にとっては生命現象そのものだ。物理学には「エントロピーは増大する」と言ふ法則がある。「際立った状態からだんだんとありふれた状態に移って行く傾向」のことを言ふ。自然は放って置けば無秩序な状態になっていく。これは「時間は逆には進められない」ことと密接に繋がってゐる。人は死ねば土に還り、自然に還る。これはエントロピーが増大することだ。これに対して生命現象は混沌の中から秩序を生み出さうとする営みだ。シュレーディンガーは「生物はマイナスのエントロピーを食べて進化する」と言った。自分の部屋も掃除をしないで放って置くと、空気中の微細な塵が雪の様に徐々に床に積もる。何日もすれば、綿埃になって積もって来る。エントロピーが増大するのである。これをなんとか秩序ある綺麗な状態にしたいといふ営みが掃除である。その意味で、掃除は生命現象と似たところがある。エントロピーはまた情報といふ概念にも共通するものがある。自分のコンピュータの上に情報を集積して行く作業は確かにエントロピーが減る方向にあることを実感する。かくして、僕はあまり勉強ができなくて後ろめたいのだが、ともかくも毎日、エントロピーを減らす方向に努力する、そのことだけで自分を慰めてゐる。