平家物語 巻第五 「咸陽宮 7」

2023-11-10 (金)(令和5年癸卯)<旧暦 9 月 27 日>(大安 壬申 七赤金星) Mårtensafton Martin Martina   第 45 週 第 27303 日

 

荊軻は燕の絵地図を持ち、秦舞陽は樊於期の首を持って、珠のきざはしを上りあがる。内裏の規模のあまりに大きいのを見て、秦舞陽はわなわなと震えた。臣下はこれを見咎めて、「舞陽に謀反の心あり。危険なものを君のかたはらにをいてはならぬ。君子は危険人物に近づくべきではない。そんなものに近づけば死を軽んずることになる。」と言った。荊軻は立ち返って「舞陽には全く謀反の心はありません。田舎の卑しいものばかり見て育ち、今日皇居を初めて見て、驚きのあまりどうして良いか迷ってゐるのです。」と説明した。すると臣下はみな静まった。かうしてついに王に近づくことがかなった。燕の絵地図と樊於期の首を見参に入れる時、絵地図が入った箱の底に、氷の様なつるぎが見えた。始皇帝はサッと逃げようとしたが、その時、荊軻は王の御袖をむずとつかんで、つるぎを胸に差しあてた。これで勝負あったとおもはれた。数万の兵士たちは庭にずらりと待機してゐるのだが、手出しができない。主君がテロリストにやられる様子を悲しんで見守るばかりであった。

冬眠したいやうな一日であった