平家物語 巻第五 「咸陽宮 3」

2023-11-06 (月)(令和5年癸卯)<旧暦 9 月 23 日>(先勝 戊辰 二黒土星) Gustav Adolfsdagen Gustav Adolf   第 45 週 第 27299 日

 

燕に帰ってからの太子丹はいづれ秦の国に戻らなければならなかったのだが、燕丹はそんな始皇帝の命令など聞きたくもない。恨みがつのり、命令を無視してゐたら、始皇帝は官軍を差し向けて燕丹を討つ準備を始めた。燕丹は恐ろしくなって、荊軻といふ兵に頼んで大臣になってもらった。すると荊軻始皇帝暗殺を企てるのだが、協力を求めて田光先生といふ強い兵のもとへ行った。田光先生は答へた。「君はこの私がまだ若くて盛んであるだらうと思ってそんなことを頼みに来たのかね。麒麟(この場合のキリンは想像上の動物で、その姿はキリンビールのビンのラベルに印刷されてある)は千里の距離でも飛んで行くことができるが、それも老いてしまへばそこらに居る馬にも負けてしまふものだ。私ももう老いてゐるので、君の手伝ひはできないね。他の兵に頼むが良いだらう」と言って帰らうとした。荊軻は慌てて、「このことは決して誰にも言はないでいただきたい」と言った。先生は「(そんな当たり前すぎることに、よくもよくも念を押したな。俺はそんな念を押さなければ信じられない人間であるとでも思ったか)。人に疑はれることよりも大きな恥はない。もしもこのことが世間に漏れたら、まづ私が疑はれることになるだらう。」と言って、門の前にある李の木に頭を突いて、打ち砕いて死んでしまった。

木々の枝々からは枯葉が随分落ちた。