平家物語 巻第五 「咸陽宮 1」

2023-11-04 (土)(令和5年癸卯)<旧暦 9 月 21 日>(大安 丙寅 四緑木星) Alla helgons dag Sverker   第 44 週 第 27297 日

 

宣旨といふものの威力がどんな風であったか、異国にその例を尋ねてみる。中国では燕に太子丹といふものがゐた。秦の始皇帝に囚はれて、12年もの間監禁された。太子丹は涙を流して嘆願した。「私には本国に老母があります。どうかここを出してください。母の身近に帰ってお世話をしたいのです。」始皇帝は嘲笑って言った。「馬に角が生えて、カラスの頭が白くなったら、お前に暇をやらう。」それで太子丹は天を仰ぎ地に伏して「どうか馬に角を生えさせ、カラスの頭を白くしてください。故郷に帰って今一度母をみたいのです。」と祈った。かの妙音菩薩(あの世の仏)は霊山浄土に参詣して不孝の輩をいましめたといふ。また、孔子顔回(この世の仏の化身)は支那震旦に出て忠孝の道を始めたといふ。あの世の仏もこの世の仏も、太子丹の孝行の志をお憐れみになった。すると本当に馬に角が生えて宮中に現れた。また、カラスの頭が白くなって庭前の木に住む様になった。始皇帝は烏の頭や馬の角の変化に驚いたが、君主のみことのりは、一度発せられたら決して変更できないことになってゐた。それで始皇帝は悔しい気持ちを抑へて、太子丹を許し、本国へ帰された。

今日も気圧低く、雨が続いた。