平家物語 巻第五 「咸陽宮 4」

2023-11-07 (火)(令和5年癸卯)<旧暦 9 月 24 日>(友引 己巳 一白水星) Ingegerd Ingela   第 45 週 第 27300 日

 

また、樊於期といふ兵がゐた。これは秦の国のものであるが、始皇帝のために父・叔父・兄弟を滅ぼされて、燕の国に逃げて来てゐた。秦の始皇帝は四海に宣旨を発して、「樊於期の首を刎ねて持って来たものには、五百斤の賞金を出さう」と広告した。荊軻はこれを聞いて樊於期のもとへ行った。「聞いたか。貴様の首に五百斤の賞金がかかったぞ。貴様の首を我に貸せ。それを持って始皇帝に会ひに行くんだ。始皇帝が喜んでその首を見るときなら、つるぎを抜き、胸を刺すことが簡単にできるだらう。」と言った。樊於期は躍り上がり、大息をついて返事をした。「俺は父・叔父・兄弟を始皇のために滅ぼされて、そのことを夜となく昼となく思ひ続けてきた。恨みは骨髄に通って忍び難い。全く貴様が言ふ様に始皇帝を滅ぼすためであるなら、この首を与へることなど安いことよ。」さう言ふと手づから首を切って死んだ。

晴れ間が少しあった。