平家物語 巻第五 「咸陽宮 6」

2023-11-09 (木)(令和5年癸卯)<旧暦 9 月 26 日>(仏滅 辛未 八白土星) Teodor Teodora   第 45 週 第 27302 日

 

しかしそんなことで帰るわけにはいかない。荊軻と秦舞陽は旅を進めて始皇帝の居る都咸陽宮に着いた。「燕の絵地図と樊於期の首を持ってまいりました。」とお伺ひを立てると、「臣下に受け取らせよう」とのお達しである。「この様に重要なことは、人を介してお伝へすることではありません。どうしても直接お渡したく存じます。」と申し上げた。さういふことなら、といって、公式の宴会の儀を整へて、燕の使ひとの会見の場が設けられた。咸陽宮は都のめぐり18380里、宮殿は地より3里高く築かれ、その上に建てられてゐる。長生殿・不老門がある。こがねを持って日をつくり、しろがねをもって月をつくり、真珠のいさご、瑠璃のいさご、金のいさごを敷き詰めてある。四方には高さ40丈のくろがねの築地をめぐらされ、御殿の上にも同じくくろがねの網が張られてある。これは皇帝の暗殺を図るものを入れまいとして設けられたものである。秋の田の面の雁、春は越路へ帰るにつけても、この網は自由に飛ぶのを妨げるので、城壁には雁門と名付けて、くろがねの門を開けて通すやうにできてゐた。その中にも阿房殿といって、いつも始皇帝がゐて、政道が行はれる建物があった。高さは36丈、東西へ9町、南北へ5町、大床の下は5丈のはたぼこ(矛の先に小旗をつけたもので、寺院の飾り物)を建ててあるが、地面に届かぬほどである。上は瑠璃の瓦でふき、下は金銀で磨かれてあった。そんな堂々の威儀を擁した御殿に荊軻と秦舞陽が入っていく。

暗い11月。冷たい雨が降って、家から出たくないのを、やっとの思ひで短い散歩。