水の中の少女

木 旧暦 8月18日 先勝 乙酉 九紫火星 二百二十日 Dagny Helny V37 23955日目

何日も前のこと、プールであった話をする。こっちの端の隣のレーンに少女が立って出発の機会を伺ってゐた。僕はさほど気にもかけずにマイペースで手足の円運動を始めたのであるが、真ん中を過ぎたあたりで顔を上げると、さっきこちら側に居た筈の少女が向かうに立って肩から上だけを水面から出してじっとこちらを見てゐる。エッ、いつの間に?と僕は驚いてしまった。迂闊にも隣のレーンであるのに自分が追ひ抜かれたことさへも、それまで気づかなかったのである。それくらいその少女は静かに速く水中を移動した。どんな風に泳ぐのだらうと見てみると、少女はいきなり潜って底面すれすれを滑る様に行くのであった。そのスラリと伸びた身体にはまるで水の抵抗など全く無い様なしなやかな動きがあった。さうして、息を継ぐことも無く一気に向かうの端まで25メートルを泳ぎ切るのである。さうしてさういふ泳ぎで何度も何度も往復するのであった。僕は驚いた。ど近眼の僕は、メガネを外したプールでは、その少女がどれくらい美人であるのか全く分からなかったが、あれは美人に違ひない。もう一度あの少女に会ってみたい、さう思ひながら毎日の様にプールに行くのだが、あれ以来一度も会ったことは無い。