カンニングの思ひ出

2022-01-26 (水)(令和4年壬寅)<旧暦 12 月 24 日>(大安 己卯 七赤金星) Bodil Boel 第 4 週 第 26656 日

 

僕は試験でカンニングしたことはないのだが、カンニングされたことはある。あれは大学2年生の時であった。当時の自動車運転免許取得のためには実地試験の他に、法令と構造の筆記試験にパスする必要があった。その法令の試験会場でのこと。どうも右の席のものが僕の答案を盗み見してゐるような感じを受けたのだ。積極的に見せてはやらなかったが、見たけりゃ見りゃ良いやくらいに思った。悪戯心が起きて、ひとつ間違へて答案用紙に印をつけ、後で考へたふりをして消しゴムで消して直すと、奴さんもまた消しゴムを使ふのだ。「ヤッパリ」と思った。法令の試験が終はって休憩時間になると奴さんが近づいて来て「できましたか?」と聞く。僕は「合格点はきっと取れてると思ひますよ」と自信ありげに答へてみた。奴さんは満面の笑みをたたへて、嬉しさうに「そうですかあー」と言ふのだ。「次の構造の試験は自信ありますか?」「僕はこれでも工学部の学生だから、まさか構造の試験で失敗することはないでせう」と答へた。奴さんはますます頬を緩めて「そうですかあー」と言ふのだ。やがて構造の試験が始まった。法令の試験に不合格のものは受験できないので、空いた座席が順に繰り上がりになり、奴さんは僕の右隣ではなくなった。それなのに、ツツーッと走り寄って来て無理に僕のそばに座ろうとしたので、試験官から注意を受けて別の座席に座らされた。奴さんが合格したかどうか、無論僕は知らないけれども、僕のこれまでの人生で、これほどまでに自分の学力を評価し慕ってくれる人は他に居なかった。その意味で忘れられない思ひ出になった。今日、大学入学共通テストで試験時間中にインターネットを通じて流出した事件があったことを知り、若かった日の出来事を思ひだしてしまった。それにしても、大胆な事件だと思った。何問かは制限時間中に返信まで受け取ったといふから驚く。この事件に限らず、デジタル時代にはびこる不正は深刻で、昔の時代のカンニングのような牧歌的な雰囲気はない。

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冬至を過ぎてひと月以上経つ。少し夕暮れが明るくなったか。