鈍が身を助けた話

月 旧暦 6月12日 大安 甲辰 五黄土星 Marta V31 24275日目

若い頃から僕は動作が鈍かったが、年をとるとますます鈍くなった様である。僕は丑の生まれで、少年の頃、国語の教科書に載ってゐた高村光太郎の「牛」が、のろまな僕を励ましてくれた思ひ出もある。「牛は大地をふみしめて歩く」と呟いたりしたものだ。のろまはいつも負の印象で評価されるが、今日はこの「のろま」のおかげで事故にあはずにすんだ。横断報道の隣に並んで自転車用横断レーンがある。そこにさしかかった時、2台の自動車が近づいて来た。僕は2台共やりすごしてから横断を始めようと自転車を止めて待った。すると1台目が通過した後で、2台目の自動車は速度を緩めた。それはあたかも、僕に向かって「お前が先に渡れ」と促してゐる様な動きだった。スウェーデンの地方都市では横断歩道に人影があると自動車はほとんど必ず止まってくれる。それで、今日もそれだなと思って自転車を発進したら、その直後自動車の方も今度は速度を上げて来たものだからすんでのことで跳ねられるところだった。この時、僕は思ひ切りが悪いので、パッと渡らずに様子を見ながらゆっくり動き始めたのである。それが良かった。もしこの時、すばしこく発進したら跳ねられてゐたと思ふ。目の前すれすれに通過した自動車の運転席では若いニイちゃんがスマホを片手にそれを見ながら運転してゐた。それで車が減速した理由が分かった。僕に気づいて減速したのではなかったのである。自動車を運転する時はどうぞスマホを見ないでほしい。