「過越しの祭」を読んで

月 旧暦 2月28日 大安 壬辰 八白土星 Liv V15 22343日目

同居人の読み終えた文庫本を回してもらって読んだ。書名は「過越しの祭」、著者は米谷ふみ子、往年の芥川賞受賞作である。人間は生きていると色々な苦労をかこつことになるが、どんな苦労にもきっと意味があるのだろうと思う。できれば苦労などしたくないと誰しも思うが、自分の選んだ道の先に待つ苦労とどのように付き合うべきかという例をこの作品に見るような気がした。日本の因循な社会を飛び出して新しい世界を求めて海を渡った著者に待っていたものは大変な生活であった。親類一族との付き合いも日本国内での煩わしさとは異質の大変さがあった。旧約聖書だけを信じ、自ら選民として三千年続くユダヤ教の行事に余儀なく付き合わされることになったことの顛末が書かれていた。民族の違い、考え方の違い、美意識の違いなども、随所に大阪弁で語られている。日本人とは何だろうか、自分にとって親族はどういう風に大切だろうか、本当の孤独とは何だろうか、本の主題から離れるかも知れないが、そういうこともちらと思いつつこの書を読んだ。ひとりの苦労が文学によって語られる時、それは社会の共有財産となっていくと思う。