「生物と無生物のあいだ」を読んで

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福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)が発売されたのは2007年である。今頃になってこの本を読みました、というのも何だか恥ずかしい気もするが、読めばあまりに読み応えのあるすばらしい本であったので、忘れないうちに読後感を書いておく。このまま読まずに過ごしていたら損をしていたような気もする。ふだん読書をしない僕は飛行機の中でこの本を読んで来たのである。この本には生命とは何か、という問いかけへの答えの出し方が書いてある。非常に専門的で高度のことが分かりやすく書かれているのだが、若き日のアメリカでの研究生活の様子や体験談などを随所に交えて、全体として肩のこらない読み物になっている。緻密な考察の進め方はどうあるべきか、研究者の心構えはどうあるべきかについても書かれている。世界中で賞賛をほしいままにした英雄的研究者の陰には、めだたないけれども、発見の真の立役者がいることも書かれている。また英雄のようにあがめられている研究者が、真の意味では、それほどの評価に値するまでには仕事をやっていない場合があることについても紹介されている。そういう意味では科学史が語られているようでもある。それでもやはりそれらはどちらかと言えば枝葉であり、本書を通して一番感動的であるのは、生命について一緒に考える機会を与えてもらえることだと思う。こういう著者と同時代を生きることができるのは喜びであると感じられるような一冊の本であった。