お便所紙

水 旧暦11月3日 先勝 庚辰 八白土星 Alexander, Alexis V50 21491日目 0.2℃

「トイレットペーパー」のことを子供の頃は「お便所紙」と言った。ロール巻きではなく四角い紙を重ねて受け皿に載せておくだけのものであった。紙の大きさはA5くらいではなかっただろうか。厚さ1メートルくらいずつまとめ買いをした。ざらざらした感じがあり、痔の時は痛くて困った。痔といえば、日本にいた時はあんなに苦しんだのに、スウェーデンに来てからの20年というもの、痔に悩むことは全くなかった。やはり食べ物のせいであろうか。ともかく、あの黒っぽいざらざらした感触の紙は、我が青春時代、白く柔らかいロール状のものに変わった。そうしなければ水洗便所の排水が詰まって困難をきたすからである。お便所紙は世の中から急速に消えていった。そしてその名も「お便所紙」から「トイレットペーパー」に変わった。この社会の変化に立ち会った時、ああ、これが文明というものかと、まるでまぶしいものを見るように、いたく感動した覚えがある。その頃はカタカナ文字の氾濫が日本語の存立を脅かすかもしれないなどということは夢想だにしなかったのである。初めから文明の中に育ってしまうと、ああいう感動はないであろう。スウェーデンに来た当初は、ロール紙でも黒っぽいものが多かったが、この頃は白い紙に変わりつつある。それでも手を洗ったあとに拭くペーパータオルはまだ黒っぽいものが多い。そういえば、あのペーパータオルと昔のお便所紙はどこか良く似ている気がする。僕は日本風にハンカチを使い、なるべくお便所紙を使わないように心がけている。