今川節からの手紙(15)

火 旧暦 6月2日 先勝 戊子 三碧木星 Laila Ritva V27 24608 日目

89年前、今川節さんが毎月発行してゐた手書きの謄写版刷りの楽譜が見つかったことから、その手紙の部分だけをなるべくちょうど89年目のその日のブログに転載することをやる様になって、今回で15回目になった。6月号は無かったのであるが、その理由も今回の手紙を読むと分かる。曲名は ”Menuetto” 「海の台場」(北原白秋謡)「かもめ」(野口雨情謡)の3曲。「台場」とはあの「お台場」のことと思ふ。北原白秋の詩は

海の台場に 萌えたよ 草が

春が来ました 来ました 沖に

といふ風に始まってゐる。

作曲楽譜第十六号を作って

本楽譜の六月号を六月十九日に出すあてで謄写版の原紙も書いて印刷するまでになって居りましたところ その前日道でこの原紙を取おとして紙面をきずつけ、もう印刷する事が出来ず仕方なく六月は發行をやめて、今月六、七月分をまとめて出すことにしました。

今月の曲中、メヌエットは一月の寒い雪の日炬燵にはいって居て書いたものです。私として割合短時間に(約三十分程で)あまり苦しみもせず作曲できたものですが、しかしクラシックな、私自身の少しもあらはれてゐない曲になってしまひました。

「海の台場」「かもめ」ー いづれも旋律は元のまゝですが、伴奏は先日に三ヶ所書きかへました。

うらの田圃の植付がまあこの間すんで、今夜はそこから雨の音をぬうて楽しそうな蛙声をきく事が出来ます。

暑中休暇もすぐですがその期にこちらへ御旅行なさるお方は是非私の家にお立寄下さいませ。(その節ハ豫め御一報を)

昭和二年七月三日印刷納本 昭和二年七月五日發行