テレビ番組「真珠湾のスパイ」

月 旧暦 10月17日 友引 癸丑 二黒土星 Virginia V50 24044日目

今年もまた真珠湾攻撃の日が来た。73年目である。NHKテレビ歴史秘話ヒストリアで、吉川猛夫のことを放送してゐた。攻撃に先立つこと半年あまり、何の作戦計画も知らされないままハワイに行かされ、アメリカ太平洋艦隊の動静の調査命令を受け、たった一人でスパイ活動をする羽目になった人の物語である。かういふ任務を、基礎訓練も与へず、たった一人に押し付けたところに当時の日本の軍部の特徴が表れてゐる。吉川猛夫は優秀な軍人であったが、優しい心の人でもあった。日本に帰ってからは海軍を辞職し故郷に帰る。そして戦後になってGHQの要請に応じ、過去の任務の詳細を報告する。さうする事が日本の再建に役立ち、現地日系人に及んだ濡れ衣を晴らすことになると信じたからである。戦争と云ふ巨大な出来事の断面は、どこを切口として眺めても、それぞれにそれぞれの歴史がある。平面的に見れば「裏切られた」と感じることの相手の陰には、止むに止まれぬ事情が隠れてゐることもある。いくつの太平洋戦史が書かれたとしても、戦争の全貌を語り尽くすことはできない。昨今、アジアの国々の間で歴史の認識をめぐって対立があるが、歴史を客観的に記述することなど最初から誰にもできない。その切口から歴史を眺めると云ふ行為の中に、既にもう、極めて主観的な視点が設定されるからである。ハワイやアメリカ本土の日系人たちの受けた差別の苦しみは、きっと本人たちでなければ理解できないだらうと思ふ。