皆既月蝕

水 旧暦 9月15日 大安 壬子 九紫火星 寒露 満月 Nils V41 23982日目

秋はある日突然来るものではないが、台風18号が去った昨日からはすっかり秋らしい天気になった。今日は寒露にして満月。しかも日本では皆既月蝕が見られる夜になった。天体ショーには違ひないが、どうも月蝕は気味が悪い。芥川龍之介の小説「袈裟と盛遠」の中に袈裟の独白として出て来る。「子供の時に乳母に抱かれて、月蝕を見た気味の悪さも、あの時の心もちに比べれば、どのくらいましだかわからない」あの時とは三年ぶりに偶然盛遠と会った時のことである。女の容色が衰へ、男は思はず視線をそらさずにはゐられなかったほど、強い衝動を感じた。女はその一瞬に、男の心に映る自分の醜さを知ってしまった。「袈裟と盛遠」は、男の独白と女の独白だけで構成された短編であるが、若い頃、あの小説には随分悩まされた。気味の悪い月蝕を見ながら、つい、そんなことを思ひ出してしまった。