はだしのゲン

日 旧暦 8月4日 大安 丁丑 八白土星 Alma Hulda V36 23588日目

はだしのゲン」は英語にはもちろん、スウェーデン語にも翻訳して出版されている。日本語を勉強している友達がこれを日本語で読みたいと言うので何年か前に日本へ出張に行った時に買って来てあげた。中公文庫コミック版全7巻というのが出ていたので、それを買ってスウェーデンに持ち帰った。その時は「はい、おみやげ」と言って渡しただけであったが、最近閲覧禁止などの騒ぎがあって話題になっているので、その友達にしばらく借りて読んでみることにした。読んでみると、それは戦争批判の漫画であり、天皇の戦争責任を問う場面や卒業式で君が代を歌うことを拒否する場面が出て来たりもする。野蛮きわまりない旧日本軍の暴力的な様子も散見され、主人公自身もかなり暴力的な雰囲気の中に生きている。しかし、僕はこの漫画を読んで、そういう生き方や考え方が正しいとか間違っているとかの議論にすぐに入るべきではないと思った。何よりもまず、この本は原爆を受けて生き延びた人間の証言である、ということが重いのであって、その体験を持たぬ読者は、自分の意見や主張を一度胸の奥にしまって、虚心に筆者が体験したことを物語の上で追体験してみることが大事であると思った。戦後の繁栄の中に育った僕たちは、原爆の悲惨さを、話としては聞いていても、本当に理解することができない。人間は、如何に同情を寄せようとも、他人の苦しみなど本当は分からないものである。その日、その時、その場に居合わせたかどうかだけの違いで、その苦しみは自分のものになっていたかも知れないのに。もう70年近くも前のことと考えてはいけない。つい最近の東日本大震災でも、骨肉に死に別れた人たちの苦しみを本当に理解できる人はあまりいないのではないかと思う。生き残った人たちが未来に向けて復興を急ぐ過程で、それはある程度仕方の無いことかも知れない。けれども、生き残ったものたちは、折あるごとに、悲しみの記憶に静かに耳を傾ける時間を持たなければ、僕たちは将来また同じ過ちを繰り返してしまうのではないだろうか。