ふるさと

月 旧暦 2月28日 大安 甲辰 二黒土星 Nadja Tanja V15 23435日目

ふるさとというものに人は複雑な思いを託すものらしい。室生犀星は「ふるさとは遠きにありて思ふもの」と詠み、石川啄木は「ふるさとの山はありがたきかな」と詠んだ。紀貫之は「人はいさ 心も知らず」と詠んでいる。これらの詩句が人口に膾炙したのにはそれなりの理由があると思うが共通点をさぐってみると、いずれも故郷の人々への懐かしさよりも山河や花鳥への憧憬の方が圧倒的に強いものらしい。だが、何年も会ってない人に久しぶりに会うことにはやはり喜びがある。会う機会がないけれどもあの人はどうしているだろうかと思う人もたくさんいる。長く会わずに人を思うといつの間にかイメージの中でその人を理想化することもある。日頃からすぐ隣にいれば長所も短所も見えるものを、長く会わないことでその人の長所だけがイメージとして残ることってあるような気がする。そういう思いと、歌の意味は違うかもしれないが、「ふるさとは遠きにありて思ふもの」には共通する思いがあると思う。フェースブックなどで簡単に昔の人と連絡が取れる時代であるかもしれないが、逢わずにいる距離感の中にこそ詩情があるような気がする。